1400字制限

最近の記事のほとんどが1400字を超えているのでタイトル無視も甚だしいが1400字「以下」に制限するとは言っていない

「違法コピーがダメなら中古本もダメじゃね?」という意見について

書籍の違法アップロードが話題になるたびによく「作者に金が払われないという点では中古本も一緒じゃね?」という人がいるそうなので、どう違うのかについて私の意見を述べます。

結論を書くと、現行の出版業では「原稿をコピーした回数」で作家の収入が決まるので、コピーしていない古本屋はOKでコピーしている違法サイトはダメという事です。

 

もう少し丁寧に話しましょう。まず電子書籍には中古本がないので話から除外し、

  • 物理書籍をブックオフやメルカリなどの中古市場で売買する
  • 物理書籍をスキャンして、違法サイトにアップロード・ダウンロードする

この2点の比較を行います。「違法だからダメなんだよ」と言うと話が終わっちゃうので、どういう制度が望ましいか、という話をします。

まずそもそも「作家に金が入る」とはどういう事なのかですが、漫画や小説を出すと「何冊売れたか」ではなく「何部印刷したか」に応じて印税が支払われます。*1

たとえば1000円の単行本を1万部刷った場合、それが1万部完売した場合でも、不幸にも9割返本された場合でも、作家は印刷した1万部×1000円の10%、つまり100万円がもらえるという制度になっています*2。発売日の翌月末に支払われる事が多いです。

つまり物理書籍の出版は、原稿をコピーした数だけ作者に金が入るというルールになっています。したがって、ブックオフやメルカリは本をコピーしているわけではないので、作者に金が払われる道理はないわけです。

一方、違法サイトにアップロードすると、電子データが大量にダウンロードされコピーされますので、本来作家に支払われるべき印税が払われていない事になります。よってルールの一貫性という観点からすると、中古本はOKで違法サイトはダメという事なります。

 

さて、この「印刷部数に応じて印税が入る」というルールは作家にとってたいへん重要です。なぜなら売れなくても印税がもらえるのです。

プロの作家というのは一度原稿に向かうと浮世の事は忘れて一心不乱に手を動かしている、と思ってる方もいるでしょうが、彼らも人間ですのでそんな訳もなく、「これ面白いのか?」「こんなの誰も買わないんじゃないか?」「おれの人生はこれでよかったのか?」と思って筆を折りそうになります。

しかし現行のシステムなら「本が出れば、売上はさておき初版印税はもらえる」となるので、ある程度先の見通しが立ちます。作家というのは地球上でいちばん「将来の見通し」に飢えている職業です。2番目はポスドクです*3

よく出版社不要論を主張する人がいますが、この「1冊書いた作家に幾らかの収入を保証する」という点だけでも存在価値は十分にあります。電子書籍中心の時代に移行しても、このような組織は必要であり続けるでしょう。それが出版社なのかどうかは知りませんが。

というわけで、作家のリスクヘッジ(および精神の保護)という観点から「コピー数に応じて印税を払う」というルールが望ましく、その必然的な流れとして「中古本はOKだけど違法コピーはダメ」という形になる、と私は思っています。

 

もちろんこれはひとつの観点であって、他にも「中古本は流通量に限りがあるが違法コピーは際限がない」とか「広い読者層にアプローチするための中古市場の必要性」とか「心情の問題」とか「出版社の立場」とか「にゃーん」とか「5000兆円」とか言うべき点が山ほどあるのですが、当ブログは1400字制限なので今日はここまで。

*1:実売部数に応じる場合もありますが、小説や漫画では今のところ少数派です。

*2:8%や6%のところもあると聞きますが、私はそういう仕事はしない。

*3:独自調査による。