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最近の記事のほとんどが1400字を超えているのでタイトル無視も甚だしいが1400字「以下」に制限するとは言っていない

DNAはなぜ二重らせんなのか

20世紀の三大発見とは「アインシュタイン相対性理論、フレミングの抗生物質、ワトソン&クリックのDNA二重らせん構造解明」といわれる。

なるほどアインシュタインは空間・時間の概念を根本的に変えたし、フレミングは長年人類の敵であった感染症を激減させたわけだが、これと並べると「DNAの構造を解明した」というのは異様に地味に見える。そもそも「遺伝子はDNAという物質で出来ている」というのはそれ以前に知られており、ワトソン&クリックはDNA分子の具体的な構造を明らかにしただけである。

なぜ二重らせんという「構造の発見」が偉大なのか。それは、その構造がまさに「なぜ親は子に似るのか」という遺伝現象の根本的な疑問が、構造を見れば分かるというレベルで明確に説明されていたからだ。

そもそも普通の物質は「複製」なんてしない。大気中のCO2がどんどん増えてるのはCO2がCO2を複製してるからではなく、人間がガンガン燃料を燃やしているからである。ハードディスクの複製が可能なのは、コンピュータがいったんメモリ上の電子データに置き換えて再度書き込んでいるからだ。

そんな中で生命体だけ、物質 to 物質での複製という珍妙な現象が起きる。だから昔の人は「生命は無生物と違う不思議な力で駆動している」と考えていた。シュレディンガーは自著「生命とはなにか」において遺伝子に対し「非周期性の固体」という曖昧なイメージを与えている。

そのような生命の複製現象に対し、はじめて物質レベルでの説明を与えたのがかの「二重らせん構造」だ。DNAを構成するのは4種類の「文字」であり、A,T,G,C と呼ばれるが、この二重らせんのAの反対側にはかならずTが結合し、Gの反対側にはかならずCが結合するようになっている。この構造がわかれば「どうやって複製するのか」はすぐに分かるだろう。

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KaiserScience, DNA replication より

二本鎖のDNAがからみ合っている。これがほどけると、片方がそれぞれもう片方の鋳型になっている。細胞内にばらばらに存在するATGCが集まってきて鋳型に貼り付く。こうしてDNAはその構造を保ったまま、2倍に複製される。これが物質 to 物質の自己複製の正体である。後の数十年でより詳細な複製機構が明らかになったが、基本はこのアイデアのとおりである。

ワトソンの自著によると、彼は当初はDNAの構造の解明と複製メカニズムの解明は別問題だと思っていたようだ。だが「A-T と G-C がペアになって並ぶ二重らせん」という構造に至ると、それ自体が複製方法について雄弁に語っていることが分かった。DNAが構造生物学の金字塔と呼ばれる所以である。*1

なおDNAに非常によく似た分子としてRNAがある。が、こちらは二重らせんではなく、通常は一本鎖として存在する。これはRNAの機能が複製ではなく、DNAの情報を読み取って他の分子に渡したり、それ自体が実働する分子だからだ。

 

*1:世の中には構造生物学をバカにする連中がいて、彼らは「生命分子の細かい構造なんて知っても仕方ない、そんなことでは全体論として "生命とは何か" という疑問に迫れない」としたり顔で語るが、彼らには二重らせん構造を投げつける必要がある。